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素問

8月 素問勉強会報告ー八月特別講義ー2014.09.09

日 時:平成26年8月10日(日)

会 場:大阪府鍼灸師会館 3階

講 師:日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生

・『脈状診の歴史 脈診の歴史に關する一考察』

 台風の雨の中、行われた講義。その内容は盛りだくさんなので、お話頂いた内容を抜粋
してご報告します。 

【序 前提】 脈状は、中国では『脈象』って言うんです。これは、比較的新しい言い
方で、元(げん)の時代の滑伯仁(かつはくじん)あたりから始まったものです。脈拍の
言葉の定義は二つあるが、歴史的に重要視されてきたのは、指先を介して感じる実際の脈
拍じゃなくてそれを見るための枠組みの方という風になります。

【Ⅰ.『脈經』―相類】 『脈經(みゃくきょう)』(西晉時代)というのは、『素問』
『靈樞』『難經』『傷寒論』『金匱要略』という五つの文献プラス、現在残っていないも
の。多数の残ってない文献からの引用が生きています。つまりオリジナルのものというよ
り編集のものだということですね。『脈經』(みゃくきょう)の「二十四脈状」の記述部
分が後の時代に幅広く影響を及ぼしたという点では非常に重要なものだという風に思いま
す。二十四脈状の影響というのは現在までの伝統医学の脈状学の枠組みを、今でも支配し
続けている。 形は大きく変わって原型を留めてないくらいですが、それでも尚現在のも
のに影響を与えています。「二十四脈状」とは、脈の形状が似ているものをくっ付け合せ
て、脈の体系を作ったということをまず頭に入れておくことですね。
 

【Ⅱ. 隋唐の脈書―陰陽】 隋唐時代には、経穴もある程度整理されますし、脈をみる
ために最も重要な脈状の枠組みというものも整理されます。『千金方』(孫思邈そんしば
く)『備急千金要方』)の中に出てくる脈状の枠組みと、『千金翼方』(孫思邈)の中に
出てくる脈状の枠組みです。 
 『脈經』で出てきたものが『千金方』に基本的にはそのまま引き継がれて、『千金翼方』
から転換して、そしてその転換した内容が『七表八裏三部脈』とか『玄感脈經』とか『王
叔和脈訣』とかを経て北宋時代以降の脈證ぐらいまで続くという大きな流れになります。
『千金方』は、何をしたかといえば『脈經』の二十四脈を使って、そして一対にするとい
う。浮沈とか滑濇とかいう一対の形にしたということが分かります。遅数というのも一対
になっていますね。

 この相類に対して相対、つまり一対にする。対になったものを一対にするというのは、
これは『千金方』では完成してないんですね。しかしこの一対にするという発想は後々非
常に重要なものとして生きてきます。『千金翼方』というのは後々の七表八裏九道の新し
い脈状の走りという風にみることが出来ます。
 

【Ⅲ. 『王叔和脈訣』系の脈書―七表八裏九道】『千金方』以来関心とされるところは、
ずっと続いている。その内容は五蔵の診察法、「七表八裏九道」、左右寸関尺、予後、諸
證の脈状、婦人と小兒の脈状。その中核はなんといっても七表八裏九道である。
 

【Ⅳ. 宋元の脈書―七表八裏九道の陰陽論的修正】 崔嘉彦『紫虚崔眞人脈訣秘旨』、
劉開『脈訣理玄秘要』、施發『察病指南』がある。
 

【Ⅴ. 明清の脈書―原理】 『診家樞要』というのは1300年代、元の終わり頃のも
のですけれども、この辺りから脈診というものは七表八裏九道という宋・金・元時代の脈
診から脱皮し始めます。著者の滑伯仁という人は『素問』に関する本を書いていますし、
『難経本義』も書いています。この書で滑伯仁のやったことの特徴的なものは、『千金方』
以来の相対という観念を復活させたことです。それで、この相対の観念は『千金方』から
得たものではなくて、恐らく崔嘉彦(さいかげん)たちの「浮沈・遅数」によって脈状を
解析するというところから恐らくヒントを得たのだという風に思っております。
【結語】 日本の脈診というのは、空想的なもの、文献学的なものを別にすれば、1970
年代までは六部定位脈診しか無かったわけですから。この六部定位脈診から脈状診を取り
入れる時に取りあえず『三因方』(陳言『三因極一病證方論』)のような南宋時代の四脈
によって、病因、病證を決める方法を取り入れたというのは、さほど異常なことでは無か
ったという風に思っています。

しかし、ここから二十四脈状に至るには、恐らく南宋時代の人たちがやったように、あ
るいは明清時代の人がやったように、この四脈状あるいは滑伯仁のような六脈状(浮沈遅
数滑濇〈ふ・ちん・ち・さく・かつ・しょく〉)からいかないと、恐らく二十四脈状に直
接触れるってことは出来ないんじゃないかなというのが、この「脈状診の歴史」をまとめ
てみて一番感じることですね。

それで七表八裏九道というものの謎というのはもちろん、まだあるわけですけれども。
しかし全部を通覧してみると七表八裏九道の脈というのは、ただ陰陽の脈診の延長に過ぎ
ないのではないか。二十四脈状を陰陽の脈(陽脈7、陰脈8)に分けた後で残ったものが
「九道の脈」ということで、これはある意味で言うと『脈經』以来の脈の枠組みというの
を陰陽で解析すると「九道」(くどう)がこんな風に残ってしまうということではないか。                   

                    (素問勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)