学ぶ

HOME » 学ぶ » 研修会&講座のお知らせ » 29年度 第6回学術講習会報告①ニューロモデュレーションによる最新治療 パーキンソン病・難治性疼痛・痙縮を中心に

研修会&講座のお知らせ

29年度 第6回学術講習会報告①ニューロモデュレーションによる最新治療 パーキンソン病・難治性疼痛・痙縮を中心に2018.03.23

■日時:平成30年2月11日
■会場:明治東洋医学院専門学校

【講演1】ニューロモデュレーションによる最新治療 パーキンソン病・難治性疼痛・痙縮を中心に

 近畿大学医学部 堺病院 脳神経外科
 内山卓也先生   

「ニューロモデュレーション」とは一般的に聞き慣れない言葉ですが、日本語に訳すと「神経調節(療法)」になります。
 神経の生理機能異常に対して、障害部位に直接薬剤や微弱な電気を流して神経活動を変化させ、調節することで効果を得る治療法です。治療の可逆性(脳を破壊しない)・調節性(外部からコントロール可能)といった特徴を有しています。
 脳や脊髄に調節可能な電気刺激を与えたり、薬剤を注入することにより、機能障害に陥った神経細胞・神経回路に影響を与え、症状の改善を来す治療法であり、今後さらに期待される治療法です。
 この治療法の概要と適応となる代表的な疾患・病態である、パーキンソン病・難治性疼痛・痙縮に対する治療効果について講演頂きました。
 不随意運動症(パーキンソン病・本態性振戦)について、脳深部電気刺激療法(DBS)の手術適応や効果の特徴について詳細に解説されました。

-*-*-*-*-

 パーキンソン病は1817年にイギリスの医師ジェームス・パーキンソンにより初めて記載された疾患で安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害を主症状とする原因不明の進行性の疾患で、中脳の黒質の神経細胞(ドーパミン)が減少する事が原因であるが、減少する原因はわからず、現在全国で19万人罹患している。早い発症では20歳代からで、初発年齢は50歳代前半から60歳代前半が最も多く、高齢者人口の増加により有病率が上昇する傾向にある。欧米白人の有病率はわが国の約1.5~2.5倍もあり、本邦の調査では女性の有病率は男性の1.5~2倍である。

 大脳基底核は運動機能の核であり、ドーパミン(神経細胞)の減少により、黒質のメラニンの退色が見られ、黒質の細胞が死ぬとレビー小体となる。病態として大脳基底核(大脳皮質・基底核・視床・皮質ループ)が神経の興奮(アクセル)と抑制(ブレーキ)の均衡(バランス)がとれなくなる状態で、視床下核と淡蒼球内節の興奮に手術のターゲットとなる。パーキンソン病の非運動症状の中で、不安・睡眠障害・嗅覚障害・自律神経障害(起立性低血圧や便秘)などがあり、病期分類で前駆期に嗅覚の衰えが出ていることがある。

 治療薬(ドパ:L-Dopa)の登場により死亡率は半分になり、症状の進行状態を遅らせ、常に介助が必要であったり(ヤール分類Ⅳ)、寝たきり(ヤール分類Ⅴ)にならないようにすることが目指すところとなる。脳深部電気刺激療法は、微小な電極で高頻度刺激により異常な神経回路を電気的遮断・発火パターンを変えて、神経の興奮を落ち着かせる療法である。利点として可変性・調節性・可逆性・合併症が少ない、欠点として、電極を体内に埋め込む、治療費が高いが挙げられる。最近では、電極も改良され、電極の部位を選定できたり、刺激強度を調節できるようになっている。手術の効果の特徴はOFF-ピリオド(電気刺激が必要な時)の底上げ効果=運動症状の日内変動の軽減とON-ピリオド(安定時)の肩代わり効果=ドパ不足分の補充とドパの減量(ドパ副作用の軽減)が挙げられる。DBSの最大効果を引き出すためには、適切な適応、適切な手術、適切な調節が必要で、ヤール分類Ⅲ又はⅣ期の神経回路が壊れてしまわない時に手術することが望ましい。

-*-*-*-*-

 症例を動画で見せてもらいましたが、振戦・立ち上がり・歩行・表情・手の振りなど電気刺激により即時に劇的に改善されていました。

-*-*-*-*-

 難治性疼痛について脊髄硬膜外刺激療法(SCS)の治療方針、作用機序、適応疾患について説明があり、神経障害性疼痛に適応している。SCSトライアルと言って脊髄硬膜外腔に電極留置まで、1週間様子をみることが出来たり、刺激電極が16極から32極になり、埋め込んだ電池が充電式になり、MRI対応型や各電極電流量コントロール型など装置の進歩がある。SCSの有効性・長期効果では、50%以上の痛みのコントロールが出来て、ADL・QOLが向上する。しかし、長い間経過している痛みや心理的要因から生じる痛みなどには効果が薄い。また、抹消血管障害に伴う疼痛に対するSCSについて、微小循環の改善が関与し、その機序の解説と症例報告がなされた。

 最後に痙縮に対する治療について、痙縮の病態生理と重症痙縮の問題点とボツリヌス療法について解説頂いた。2011年から保険適用になり、注射手技により行われ、下肢・上肢痙縮に対する投与部位と投与量・治療効果についてスライドを交え解説された。ボツリヌス療法の利点は、可逆的治療である。個別の筋肉を細かくターゲットできる。他の治療法と組み合わせることができる。欠点は、繰り返しの投与が必要。投与量に限りがある。大きい筋肉を目標とした場合、量的に不十分である。また、保険適用とは言え、1本8万円するのには驚いた。

 バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法)はお臍の横にポンプを埋め込みカテーテルを髄腔内に留置し、持続投与し、飲み薬では100分の1や1000分の1しか脊髄に入らない薬剤を投与することが出来る。脳血管障害(片麻痺)や(対麻痺)・多発性硬化症・痙直型脳性麻痺・頭部外傷における効果を動画で解説頂きITB療法の利点として、広範囲の痙縮に効果があることである。

 まとめとして、不随意運動症・痙縮・難治性疼痛は日常生活動作に影響を及ぼし生活の質を低下させる。ニューロモデュレーション治療により、劇的に症状を改善させることができる。(脳)神経外科がその役割を担っていることを是非知って頂きたいと。

-*-*-*-*-

 鍼灸院でもパーキンソン病の患者様は、何人かは来院された経験があると思いますが、比較的症状が進行していない時であると思います。しかし、進行が止むわけではなく、ADLやQOLが損なわれないうちに、ニューロモデュレーション治療への紹介が鍼灸師への信頼にも繋がるように感じました。鍼灸での鎮痛効果もありますが、今回動画で見させて頂いた症例ではとても鍼灸では手の施しようがない、薬剤でも効果が期待できないものに著効があり、安全性の高い治療法を知りえる良い機会を得ました。

思川裕子