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研修会&講座のお知らせ

29年度 第6回学術講習会報告②慢性痛と鍼灸治療2018.03.23

■日時:平成30年2月11日
■会場:明治東洋医学院専門学校

【講演2】慢性痛と鍼灸治療

 明治国際医療大学大学院 教授
 伊藤和憲先生

 痛みには急性痛と慢性痛があり、鍼灸院に訪れる患者の多くは慢性痛を訴えられる。急性痛は外傷や疾患に伴う症状で、警告信号としての役割をしており、診断・鑑別が重要である。しかし、慢性痛は痛みの原因が明らかでないことが多く、情動が多分に関与しており、痛み自体が疾患である。また、痛みの継続期間が長い程、患者の精神症的傾向は強くなり、痛みの悪循環を形成している。つまり、慢性痛の機序は急性痛とは異なり複雑である為、原因を突き止めるよりも痛みを止めることが先決である。我々鍼灸師はこのような慢性痛を訴えられる患者へどうアプローチするか、さまざまな工夫が必要であり、疼痛の専門家、そして総合診療家としての資質が求められている。

〇診察の手順と考え方
①痛みの原因を見極める(神経性、骨性、関節性、筋肉性、皮膚、精神性、その他:椎間板・内臓など)。痛みの治療は疾患名よりも痛みの機序で考えることが重要。慢性痛は筋肉に関連した痛みが多い。

②考えられる疾患をイメージし、病態把握の為の詳細な問診・検査を行う。その際、感度・特異度・尤度(ゆうど)を参考にすると疾患を絞りこみやすい。

③鍼灸治療不適応となる疾患を判別する。治療を行う前に以下のレッドフラッグを確認する。a,発症時と比べて痛みが増悪 b,激しい痛みの訴え c,筋力の著しい低下、歩行困難 d,便や尿が出にくい)

④痛みの中心が末梢組織、脊髄レベル、脳レベルの何処にあるかをイメージする。自律神経症状があったり、天気や気温で痛みが変化したり、不定愁訴(不眠・うつ)が多い場合は末梢組織のみでなく脊髄・脳レベルの問題が考えられる。

⑤イエローフラッグ(その患者が慢性痛になりやすいか)の確認。常に不安や緊張がある、動くと痛みが悪化するので安静が一番と考える、などに該当する患者は痛みに対する考え方を変える教育が必要となる。

⑥ゴールを設定する。慢性痛は治療が長期になることが多い為、ゴールが明確でないと患者は治療に満足が得られない。その為には、EBMをうまく活用し、どのような治療を行えば、どのくらいで効果が出るのかを患者に示すことでゴールを設定し、患者と共にその目標へ向かうことが大切。


〇何故、痛いのか?
痛みは皮膚や筋肉、内臓などに存在する受容体が痛み信号をキャッチし、受容器で電気信号に変える。その後、電気信号は神経を経由し、後根神経節を経て脊髄へ伝わる。脊髄では電気信号を化学的信号に変換し、脳へ伝える。痛みの原因がこれらの経路の中のどの部分に起きているのかによって治療のアプローチを変える必要があり、鎮痛薬の処方も異なってくる。


〇治療の手順と考え方
 鍼灸治療が何故痛みに有効なのかは3つの作用で説明できる。
a,鎮痛系を介した作用:末梢性鎮痛(炎症部位や疼痛局所の鍼灸治療)、脊髄性鎮痛(デルマトーム上の鍼灸治療)、脳性鎮痛(遠隔部、又は顔面部の鍼灸治療)
b,鎮痛以外を介した作用:Ia,Ib抑制を介した筋緊張の緩和(筋腱移行部の鍼灸治療)や角化細胞を介した免疫・内分泌調整(擦過鍼)など
c,神経伝達物質を介した作用:セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど


〇慢性痛をもっと理解する
 脳の前頭前野の機能は、思考や認知に関わっているが、この部分がブロックされている患者は鎮痛が起こりにくい。つまり、「治療しても仕方ない」、「治るイメージが出来ない」などの破局的思考を持つと、下行性疼痛抑制系は正常に作動しないのである。このような患者には神経科学的アプローチが効果的である。その一例として、認知行動療法や頭皮鍼通電療法をご紹介いただいた。このように、慢性痛は感情の変化など様々な原因で痛みが変化することから、患者自身が家庭でできるセルフケアを指導するなど、我々はペインマネージャーとして患者の痛みをトータルケアする必要がある。
 今回の講義を拝聴し、痛みの専門家として、複雑な痛みの治効機序を正しく理解することの重要性を学ばせていただき、的確な治療とインフォームドコンセントの為に活かしていくことが今後の課題となりました。また、ゴール設定をして患者と一緒に目標に向かっていくために、痛みのみにフォーカスするのではなく、痛みを抱えた患者をどうケアしていくかにおいて、幅広い知識が必要であり、伊藤先生から多くのヒントをいただきましたので、早速臨床に活かしていきたいと思います。

(研修委員 上田里実)