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研修会&講座のお知らせ

平成30年度 第6回学術講習会報告②「NBMと鍼灸臨床」2019.04.24

■日時:平成31年3月10日

【講演2】「NBMと鍼灸臨床」
 講師 森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科 教授
    森ノ宮医療大学鍼灸情報センター 教授
    山下 仁 先生

 Narrative(NBMナラティブ)とは物語の意であり,個々の患者が語る物語から病の背景を理解し,抱えている問題に対して全人格的なアプローチを試みようという臨床手法である。NBMとは、(以下、斎藤清二によるNBMの解説を要約・改変)①患者の語る「病の体験の物語」をまるごと傾聴する。②複数の異なる物語の共存や併存を許容する。③治療者と患者との対話から新しい物語が創造される。

「どんな非科学的な話であっても当事者には特別な意味を持っている」(板垣忠生国立がんセンター名誉総長)

 EBM(Evidence Based Medicine)偏重時代の中で,NBMはEBMを補完するためのものであり,互いに対立する概念ではなく、④臨床の状況に応じて、EBMとNBMの両者の概念と手法を併用することによって、より質の高い医療レベルに到達することができる。
 まずEBMを理解しないと、このNBMの理解もできないため、EBMについて詳細な解説を頂いた。EBMは、エビデンス・患者の価値観・臨床的状況と環境・治療者の専門的技能を表し、この介入(治療法)は有効か?をLevel1~5で示し、RCT(ランダム化比較試験)においてデータの統合やエビデンスの質の評価を受け、エビデンス総体【システマティックレビュー(メタアナリシス)】が成り、推奨度の決定により、エビデンスにもとづく診療ガイドラインが作成される。

 手指消毒を例にガイドラインでは、速乾性手指消毒薬によるラビング法による手洗い導入後の病棟における院内感染の減少率を挙げた。エビデンスだけに基づけば良いかもしれないが、患者の治療やケアにおいてはそうはいかないことを取り上げ、病の物語に寄り添わない医療の悲しさを体験した月刊ナラティブメディカの編集をしていた中野良一氏の「悲しい乳房の物語」を紹介された。

 NBMの実践は、患者と医療者の良質な対話であると。対話の話題選択の主導権は患者にあり、患者の病の物語を医療者は患者と共有することである。山下先生は、屁理屈が通らなくても、非科学的でも取り入れようと。
臨床の中で物語ができあがると言われていた。

 事例を2例挙げられ、ディペックス・ジャパンの「健康と病の語り」データベースを画像と音声による例を挙げた解説だった。

 山下先生は光藤英彦先生の元で生活史的認識法(時系列分析)を学ばれながら、臨床に携わり、目の前に時系列分析表を置き、患者さんと埋めていく共同作業が、普段なら訊ねられない重い話も容易に引き出せ、様々な場面を疑似体験し共有する感覚を体験された。これは、当時(1980年代)名前もなかったNBMのひとつの実践例であったと。また、痼疾に対する経穴を探り、治療者の指がターゲットを絞り込むと患者が「あぁ、そこです」という言葉を発した時は、患者と治療者と補助者が互いに納得した気持ちが共有され、共同作業をしている感覚であった。このように鍼灸臨床の中で「こそ」立ち現れる/構成される物語がある。

 結論として、NBMとEBMは相補的関係である。臨床においてエビデンスは多くの場合、典型的な例について断片的に提示されているに過ぎない。エビデンスだけで臨床のすべてのプロセスにおいて決断・実行することは不可能で、断片的に散らばっているエビデンスを個別の患者のナラティブでつなげていく作業が現実の臨床には必要となる。

 NBMはEBMほど明確な定義やプロセスが確立していない。しかし、必要性に異論もない。再現性を求めるエビデンスは無理なので、ナラティブとして書き留めていくことである。
 
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 正に、日々行っている鍼灸臨床では、多くの先生方がナラティブを体験しているでしょうし、また、ナラティブとして今後の臨床記録に書き留めることの重要性を再確認できた研修でした。

                                       
研修委員  思川裕子