公益社団法人 大阪府鍼灸師会

霊枢勉強会報告

報告霊枢勉強会報告 『黄帝内經靈樞』 厥病(けつびょう)第二十四・第二章NEW

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和六年(2024年)5月12日(日)第38回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員5名(会場) 一般11名(会場)
*5月度は会場16名でした。

○『黄帝内經靈樞』 厥病(けつびょう)第二十四・第二章

○01 厥心痛。 02 與背相控。 03 善瘈。 04 如從後觸其心。 05 傴僂者。 06 腎心痛也。 07 先取骨崑崙。 08 發針不已。 09 取然谷。

01 厥心痛(けっしんつう)、 02 背(せ)と相控(あいひ)きて、 03 善(よ)く瘈(けい)し、 04 後(しり)えより其(そ)の心(しん)に觸(ふ)れるが如(ごと)くにして、 05 傴僂(うろう)する者は、 06 腎(じん)の心痛(しんつう)なり。 07 先(ま)ず京骨(けいこつ)、崑崙(こんろん)を取る。 08 針(はり)を發(はっ)して已(い)えざれば、 09 然谷(ねんこく)を取る。
(解説)
*02節は、胸も背中も痛いということを言っている。

*03節の瘈(けい)すということであるから痙攣(けいれん)があるのだろう。ひきつったりするということである。

*04節の心(しん)というのは、見えない心(しん)の気(き)ということである。解剖学でいう心臓とは違う。ここでは、からだのうしろから、からだの中にあって、見えない心(しん)というものに触れられているように痛むのだと言う。

*05節の傴僂(うろう)とは、背中を曲げて伸びない状態をあらわしている。からだのうしろの方から前のほうにまで痛みが来て、苦しそうに前かがみになっている状態であろうと思う。

*06節で五蔵(ごぞう)の構造的な認識があることがわかる。心痛(しんつう)には腎(じん)がからんでいるものがあるということを言っていよう。五蔵(ごぞう)の認識もなく、ただの心痛(しんつう)だと考えて、たとえば特効穴があるから、そこを使って治療すればよい、そんな治療法ではない。この症状がある時には心痛(しんつう)だけど腎(じん)がからんでいるという病態把握をしている。

*07節で京骨(けいこつ)崑崙(こんろん)というつぼを取るのだという。腎(じん)は足の少陰(しょういん)の経脈と関係がある。その表裏関係として足の太陽(たいよう)の経脈がある、そんなふうに考えていると思う。そうした考えがないと京骨(けいこつ)や崑崙(こんろん)という(膀胱と関係する)足の太陽(たいよう)の経脈のつぼを取る考え方は、おそらく出てこないと思う。

*08節の「針を発する」というのは針を取り去ればという意味だと思う。京骨(けいこつ)や崑崙(こんろん)を使って治らなければ然谷(ねんこく)というつぼを使うのだと言う。この理屈はわかる。然谷(ねんこく)というとつぼは足の少陰(しょういん)という腎(じん)に関係のある経脈にある。はじめは腎(じん)と表裏関係にある足の太陽(たいよう)の経脈から攻めたてて行く。それが駄目ならば今度は直接に腎(じん)と関わる足の少陰(しょういん)の経脈を使うということだと思う。然谷(ねんこく)や京骨(けいこつ)というつぼが、どのような位置づけのもとに使われているのか、そんなことも研究の必要があろうと思う。

*腎(じん)と膀胱(ぼうこう)は表裏の関係にある。足の少陰(しょういん)と足の太陽(たいよう)という経脈も表裏の関係にある。これは各々の注解者も書いていることである。


**京骨(けいこつ): 足の太陽膀胱経、部位 足外側,第5中足骨(ちゅうそくこつ)粗面の遠位,赤白肉際。
**崑崙(こんろん): 足の太陽膀胱経、部位 足関節後外側、外果尖(がいかせん)とアキレス腱の間の陥凹部。

**然谷(ねんこく): 足の少陰腎経(しょういんじんけい)、部位: 足内側,舟状骨(しゅうじょうこつ)粗面の下方,赤白肉際。



○10 厥心痛。 11 腹脹きょう滿(**「きょう」の字は「匈」の下に「月」)。 12 心尤痛甚。 13 胃心痛也。 14 取之大都太白。

10 厥心痛(けっしんつう)、 11 腹脹(ふくちょう)しきょう滿(きょうまん)し、 12 心(しん)尤(もっと)も痛むこと甚(はなは)だしきは、 13 胃(い)の心痛(しんつう)なり。 14 之(これ)を大都(だいと)、大白(たいはく)に取る。(**11節「きょう」の字は「匈」の下に「月」)

(解説)
*13節にある胃(い)の心痛(しんつう)、これが脾(ひ)の心痛となっていないのが、とてもおもしろい。ふつう腹脹(ふくちょう)きょう滿(きょうまん)と言うと脾(ひ)の病証だと考える。この症状の心痛(しんつう)は脾(ひ)がからんでいるのだと考えやすいものである。しかしここでは胃(い)の心痛だと言う。胃(い)というものは五蔵六府(ごぞうろっぷ)の中でも特殊なものである。単に脾(ひ)の表側が胃(い)というだけではなくて、五蔵(ごぞう)と深くかかわるものというふうに考えることが出来る。

*胃(い)の心痛ではあるが、使うつぼは胃経(いけい)のものでは無くて、脾経(ひけい)大都(だいと)太白(たいはく)を使う。これはちょっとおもしろい。


**大都(だいと): 足の太陰脾経、部位 足の第1指,第1中足指節関節の遠位内側陥凹部,赤白肉際。
**太白(たいはく): 足の太陰脾経、部位 足内側,第1中足指節関節の近位陥凹部,赤白肉際。(本文では大白



○15 厥心痛。 16 痛如以錐針刺其心。 17 心痛甚者。 18 脾心痛也。 19 取之然谷大谿。

15 厥心痛(けっしんつう)、 16 痛むこと錐針(すいしん)を以(もっ)て其(そ)の心(しん)を刺すが如(ごと)く、 17 心(しん)痛むこと甚(はなは)だしき者は、 18 脾(ひ)の心痛(しんつう)なり。 19 之(これ)を然谷(ねんこく)、大谿(たいけい)に取る。

(解説)
*16節の錐針(すいしん)というのは、錐(きり)のような針を言う。これで心(しん)を刺すというのであるから、これは痛い。

*18節の脾(ひ)の心痛は胃(い)の心痛よりも痛みがすごい。

*19節で然谷(ねんこく)大谿(たいけい)という足の少陰の経脈を取っている。(脾と関係がある)足の太陰(たいいん)のつぼは取ってはいない。

*五蔵(ごぞう)が経脈と関係した途端、対立の関係性が導入された。


**然谷(ねんこく): 足の少陰腎経、部位 足の内足,舟状骨粗面の下方,赤白肉際。
**大谿(たいけい): 足の少陰腎経、部位 足関節後内側,内果尖トアキレス腱の間の陥凹部。



(参考文献)
**で表す経穴の記載は以下のテキストを引用している。
『新版 経絡経穴概論 拡大版』日本理療科教員連盟,社団法人東洋療法学校協会編,医道の日本社発行2009年4月第1版


*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は2024年 7月14日(日)「周痺(しゅうひ)第二十七」です。続き物でもないので、どの篇でも興味に応じて受講頂ければと思います。八月度は年に一度の特別講義、テーマは『蔵象(ぞうしょう)について』です。 お楽しみに。

(霊枢のテキストは現在2冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)


(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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