公益社団法人 大阪府鍼灸師会

霊枢勉強会報告

報告『黄帝内經靈樞』 血絡論(けつらくろん) 第三十九 第一章NEW

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和七年(2025年) 7月13日(日) 第51回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員(準会員含む)20名 会員外(日鍼会・全日学会員含む)13名 学生13名
    *7月度は会場14名、ネット配信での受講が32名でした。

『黄帝内經靈樞』 血絡論(けつらくろん) 第三十九 第一章
○25 歧伯曰。  26 脈氣盛而血虚者。  27 刺之則脱氣。  28 脱氣則仆。

25 歧伯(きはく)曰(いわ)く、  26 脈氣(みゃっき)盛んにして血虚(けっきょ)する者は、  27 之(これ)を刺せば則(すなわ)ち氣(き)を脱(だっ)す。  28 氣(き)を脱すれば則(すなわ)ち仆(たお)る。
(解説)
*26節の「血虚(けっきょ)」であるが、これを簡単に言うと、からだの中に流れている血(ち)が出血によって少なくなったということである。 血が少なくなった状態は、同時に氣(き)が少なくなったという状態をまねく。

*27節の「脱氣(だっき)」というのは氣虚(ききょ)と同じものである。 氣虚(ききょ)の最初は、頭がぼんやりする。 その次に意識が昏迷(こんめい)する。 ここでは血(ち)を抜くことで氣虚(ききょ)になった、 ということなのだろう。

*經脈(けいみゃく)の中に氣(き)と血(ち)があって、それらは相互依存の関係にある。 その両方ともが虚(きょ)したために、倒れるというふうに渋江抽斎(しぶえ ちゅうさい)は見ているのだろう。 しかし私たちは、それだけでは、とても満足はできない。 ここの文章は瀉血(しゃけつ)をした時に倒れる人が居て、その時の解釈をしているのだろう。 瀉血(しゃけつ)して出血した状態を、血虚(けっきょ)と見て解釈している。 脈の氣(き)は盛んではあるが血虚(けっきょ)している時には、刺してさらに血を出すと、氣(き)も同時に抜くこととなる。 それで倒れてしまうと、そんな解釈をしているのだと思う。 しかし、あまり具体性があるようには思えない。

*澀江抽齋(しぶえ ちゅうさい)は張志聰(ちょうしそう)の注を引いている。

張志聰曰、 「 此言經脈之血氣、 皮膚之氣血、 皆出于胃府水穀之精、 而分走其道、 所當和平者也。 若經脈之脈氣盛、 而皮膚之血氣虚者、 刺之則脱氣、 脱氣則仆矣。 」

*上記の文章の言いたいことは、おおむね、こんな感じかと思う。

まず氣血(きけつ)というものを經脈(けいみゃく)の血氣(けっき)と、 皮膚の氣血(きけつ)の二つに分けて考えている。 からだの深い部分にある、經脈(けいみゃく)の血氣(けっき)というものは盛んである。 そしてからだの浅い部分にある皮膚の氣血(きけつ)は虚している。 そういう場合に針を刺すことによって氣(き)が脱してしまい、その人は倒れてしまう。 そんなふうに視ている。 氣血にはからだの浅い部分のものと、深い部分のものの両方があると、そんな見方を採っている。 この考え方が正しいかどうかは何とも言えない。 しかしこのような解釈をした人もいたのだな、ということはわかる。


○29 血氣俱盛。  30 而陰氣多者。  31 其血滑。  32 刺之則射。

29 血氣(けっき)俱(とも)に盛んにして、  30 陰氣(いんき)多き者(もの)は、  31 其(そ)の血(けつ)滑(かつ)なり。  32 之(これ)を刺せば則(すなわ)ち射(い)る。
(解説)
*32節の「之(これ)を刺せば則(すなわ)ち射(い)る」というのは、 針を刺せば血(ち)が噴き出すということを言っている。 血(ち)が噴き出すという状態は、血氣(けっき)ともに盛んな状態である。 30節と31節を読むと、陰(いん)の氣(き)が多くて、その血(ち)が「滑(かつ)」という状態である。 血(けつ)と氣(き)と陰氣(いんき)、この三つのものの関係がよくわからない。 特に氣(き)と陰氣(いんき)の関係が不分明なので、どういうふうに解釈されているか、ちょっと解りかねるところがある。

*楊上善(ようじょうぜん)と言う人は、このように注解を入れている。
「 陽氣多者、 其血滑、 刺之血射。 此爲「陰氣多者」、 陰多爲澀、 故「陰」字錯也。 」

これを訓読すると、このようになろうか。
楊上善(ようじょうぜん)曰(いわ)く、 「陽(よう)の氣(き)が多ければ、 其(そ)の血(ち)は滑(かつ)。 陰(いん)の氣(き)が多ければ、 其(そ)の血(ち)は澀(じゅう)と爲(な)す。 故(ゆえ)に「陰(いん)」の字は錯(さく)、あやまっている。

*澀江抽齋(しぶえ ちゅうさい)はこのように記す。
善按楊氏説似未必。

*おおむね、こんなことを言っている。
「わたしが按ずるには、楊上善(ようじょうぜん)の説は、注として引いてはみたものの、それを全面的に受け入れることはできない。」

*30節と31節の陰氣(いんき)と滑脈(かつみゃく)の関係というものは、経文(けいぶん)だけでは解りかねる部分がある。


○33 陽氣畜積。  34 久留而不寫者。  35 其血黑以濁。  36 故不能射。

33 陽氣(ようき)蓄積(ちくせき)し、  34 久しく留(とど)まりて寫(しゃ)せざる者(もの)は、  35 其(そ)の血(ち)黑(くろ)くして以(もっ)て濁(にご)る。  36 故(ゆえ)に射(い)ること能(あた)わず。
(解説)
*張志聰(ちょうしそう)はこのように言っている。
「 此言經脈之内、 皮膚之間、 皆有此血氣、 而有陰陽之分焉。 經脈爲陰、 皮膚爲陽。 俱盛者、 經脈外内之血氣俱盛也。 如脈中之陰氣多者、 其血滑、 故刺之則射。 如皮膚之陽氣畜積、 久留而不寫者、 其血黑以濁、 故不能射也。 」

【 此(こ)れ經脈(けいみゃく)の内(うち)、 皮膚の間(かん)、 皆(み)な此(こ)の血氣(けっき)有り。 而(しか)して陰陽(いんよう)の分(ぶん)有るを言う。 經脈(けいみゃく)は陰(いん)爲(た)り。 皮膚は陽(よう)爲(た)り。 俱(ともに)盛んなる者(もの)は、 經脈(けいみゃく)の外(そと)内(うち)の血氣(けっき)俱(ともに)盛んなり。 脈中(みゃくちゅう)の陰氣(いんき)多きがごとき者(もの)は、 其(そ)の血(ち)滑(かつ)なり。 故(ゆえ)に之(これ)を刺す則(すなわ)ち射(い)る。 皮膚の陽氣(ようき)畜積(ちくせき)するがごときものは、 久しく留(とど)まりて寫(しゃ)さざる者(もの)は、 其(そ)の血(ち)黑(くろ)くして以(もっ)て濁(にご)る。 故(ゆえ)に射(い)ること能(あた)わず。 】

*彼は、經脈(けいみゃく)および皮膚の間に血氣(けっき)があると言う。

*からだの深いところにあるもの、それは血がたくさんある状態で瀉血(しゃけつ)すると、血が噴出して来る。 皮膚のところにある陽(よう)の氣(き)というものは血の色が黒く変化するのだと言っている。 血が噴出するものと、噴出はしないけれど血の色が黒くにごって滞るものの二種類に分けている。



*『霊枢』の森を歩いてみませんか。 毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。 勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は 9月14日(日)、『霊枢』「陰陽清濁(いんようせいだく) 第四十」 です。 

(霊枢のテキスト〈日本内経医学会 発行,明刊無名氏本〉 は現在1冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)

(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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