公益社団法人 大阪府鍼灸師会

霊枢勉強会報告

霊枢勉強会報告 『黄帝内經靈樞』 四時氣(しじき)第十九・第二章NEW

講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生
日時 :令和五年(2023年)12月10日(日)第33回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会員22名(うちWeb13名) 一般17名(うちWeb9名) 学生8名(うちWeb8名)
*12月度は会場18名、ネット配信での受講が71名でした。

○『黄帝内經靈樞』 四時氣(しじき)第十九・第二章

○01 温瘧汗不出。 02 爲五十九痏。

01 温瘧(うんぎゃく)、汗(あせ)出(い)でざるは、 02 五十九痏(ごじゅうきゅうい)を爲(な)す。

(解説)
*温瘧(うんぎゃく): 「瘧(ぎゃく)」というのは、はじめに寒気がして、後で高い熱が出ること、あるいは寒と熱が往来するものを指す。「温瘧(うんぎゃく)」は、はじめに熱が出て、後で寒気がするもの、そうした解釈が歴代、受け継がれている。「温熱(うんねつ)」の「温(うん)」という字があるので、最初に熱が出るというものである。そして「瘧(ぎゃく)」ということで、寒と熱が往来するのである。はじめに熱性疾患のような症状が出て、その後に寒と熱が往来する症状を指している。
「うんぎゃく」という読み方は江戸時代の『病名彙解(びょうめいいかい)』に出ている。読みは「おんぎゃく」ではなく「うんぎゃく」を取りたい。

*五十九痏(ごじゅうきゅうい)というのは、江戸時代の『類經(るいきょう)』系の本にある。その中では「五十九痏(ごじゅうきゅうい)」は「五十九刺(ごじゅうきゅうし)」と呼ばれている。「痏(い)」は傷跡という意味である。切ったり刺したりした跡のことを言う。さて、ここで問題になるのは「五十九」という数字である。『素問(そもん)』という本の「水熱穴論篇(すいねつけつろんへん)第六十一」や本書「熱病第二十三」という篇に、熱病の時には59か所の鍼を刺す場所がある、そんな記載がある。熱兪(ねつゆ)というからだの熱を解消する59の場所があり、そこに鍼を刺すとされている。
これの対照に「水病(すいびょう)」があり、この症状に対して57か所のつぼが決まっている。これは『素問(そもん)』の「水熱穴論篇(すいねつけつろんへん)第六十一」にその記載がある。

*ここでは「温瘧(うんぎゃく)で汗が出ない場合には、熱の治療をする59のつぼの何かを使いなさい」と言っているのだと思う。

*「熱病」と「水病」あるいは「熱病」と「寒病」に対する鍼の使い方、それが恐らく九針(九鍼)というものだと思う。九針については鍼のテクニックや鍼のかたちについては皆、熱心である。しかし九鍼(きゅうしん)というものは、鍼のかたちであったり、鍼の刺し方ではなくて、どういう病態にどの鍼を使うのかということに尽きよう。

*01~02節の文章は『素問』という本の「刺瘧篇(しぎゃくへん)」にも同じものが出て来る。「温瘧汗不出。 爲五十九刺。 【温瘧(うんぎゃく)、汗出でざるは、五十九刺を爲(な)す。】 」

*『素問(そもん)』「氣穴論篇(きけつろんへん)第五十八」には「藏兪(ぞうゆ)五十穴。府兪(ふゆ)七十二穴。熱兪(ねつゆ)五十九穴。水兪(すいゆ)五十七穴。」と書かれている。ここでいう「熱兪(ねつゆ)五十九穴」が「五十九痏(い)」のことを指す。
藏兪(ぞうゆ)や府兪(ふゆ)は、蔵(ぞう)や府(ふ)のために使うつぼ、熱兪(ねつゆ)や水兪(すいゆ)は熱病や水病あるいは寒病に対して使うつぼである。


○『黄帝内經靈樞』 四時氣(しじき)第十九・第三章

○01 風すい膚脹。
(「すい」の字は「疒(やまいだれ)」に「水」) 02 爲五十七痏。 03 取皮膚之血者。 04 盡取之。

01 風すい膚脹(ふうすいふちょう)は、 02 五十七痏(ごじゅうしちい)を爲(な)す。 03 皮膚の血(ち)ある者を取って、 04 盡(ことごと)く之(これ)を取る。

(解説)
*「膚脹(ふちょう)」というのは皮膚が腫れた状態を言う。「風すい」の「風(ふう)」はからだの表面に病態がある、またはからだの上方に病態があるということを意味している。「すい(漢字は「疒(やまいだれ)」に「水」)」は「水」という字でも良い。「風水(ふうすい)」という言葉があるが、それと同じような病症である。

*馬玄臺(ばげんだい)という人はこのように言っている。
「すい」(字は「疒(やまいだれ)」に「水」) は、すなわち水(すい)、水(すい)を以(もっ)て疾(やまい)と爲(な)す。
ゆえに加うるに疾(やまい)の首(しゅ)を以(もっ)てす。 (*それゆえに「水」にやまいだれ「疒」を加えたのだと言う)
風水(ふうすい)とは、『素問(そもん)』奇病論(きびょうろん)、水熱穴論(すいねつけつろん)、評熱論(ひょうねつろん)、本經論疾診尺篇(ほんけい、ろんしつしんしゃくへん) (*「本經」は『靈樞(れいすう)』を指す) に見える。「膚脹(ふちょう)」というのは、『靈樞(れいすう)』の水脹論(すいちょうろん)に出て来る「膚脹(ふちょう)」と同じ意味である。

*03節の「皮膚の血ある者を取って」とは細絡(さいらく)のあるものを取りなさい、ということを言っている。昔の中国医学では血の滞りが気の滞りに通じている。血の滞りを取ることによって、血のめぐりを良くし、なおかつ気のめぐりも良くする、そんな発想なのであろう。『素問』や『靈樞(れいすう)』という本のみを読んでいるならば、当然ながら刺絡(しらく)という方法を採ることになろうか。


*余談ながら、レジメにたくさんの、昔の、あるいは今の、漢文で書かれた文章を引用している理由についてお話したい。まず、このような学習の方法を採らざるを得ないことが一つの理由である。そして、もう一つの理由がある。二時間の講義をする時にもっとも簡単な方法を採るとするならば4ページぐらいのレジメで足りると思う。『靈樞(れいすう)』の本文を書いて、訓読文を作って、そして簡単な注をつけてということで足りるかと思う。しかし何故、文章を膨大に引用し、注をつけて色々とするのかと言うと、結論よりも、そのプロセスが大事だと思うからだ。

この項で言うと「風水(ふうすい)」という結論も大事なのであるが、しかし、ということである。風水は風邪(ふうじゃ)によって起こる、あるいは水病(すいびょう)は顔面が腫れるとか、風(ふう)はからだの表面やからだの上方に症状が出るとか、そう言ってしまえば終わる。しかし、それでは勉強にはならないと思う。風水というものが表現を変えて、どの本のどの部分に出て来るのか、従来の注解者の仕事を積み重ねていかないと、やはりそれは宜しくないと思うからである。

*過去の注解者の仕事を積み重ねていくと、何がわからないのかがわかる、そんな利点がある。


*『霊枢』の森を歩いてみませんか。毎月休まず第二日曜、午前10時から12時まで大阪府鍼灸師会館3階です。勉強会のご案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は2024年 2月11日(日)「五邪(ごじゃ)第二十」に進みます。『霊枢』は続き物でもないので、どの篇からでも、ご自由に受講頂きたい、これが当方の思うところです。


(霊枢のテキストは現在2冊の在庫があります。1冊1,600円です。受講申し込み時、または当日、受講受付けにてお問い合わせください)


(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)

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