霊枢勉強会報告
報告『黄帝内經靈樞』 病傳(びょうでん) 第四十二 第一章NEW
講師 :日本鍼灸研究会代表 篠原 孝市 先生日時 :令和七年(2025年) 10月12日(日) 第54回
会場 :大阪府鍼灸師会館 3階
出席者:会場15名
『黄帝内經靈樞』 病傳(びょうでん) 第四十二 第一章
○51 黄帝曰。 52 大氣入藏柰何。
51 黄帝(こうてい)曰(いわ)く、 52 大氣(たいき)、 藏(ぞう)に入(い)ること柰何(いかん)、 と。
(解説)
*52節の「大氣(たいき)」とは「邪氣(じゃき)」のことである。 「氣(き)」と言っても「邪氣(じゃき)」のことを指す場合もある。
*馬玄臺(ばげんだい)はこのように言っている。
「大氣入藏者、 即『素問』標本病傳論之所謂病傳也。」
【 大氣(たいき)、 藏(ぞう)に入(い)るは、 即(すなわ)ち 『素問(そもん)』標本病傳論(ひょうほんびょうでんろん)の謂(い)う所(ところ)の病傳(びょうでん)なり。 】
*『素問(そもん)』の篇、「標本病傳論(ひょうほんびょうでんろん)」を書き換えたのが、この『靈樞(れいすう)』の「病傳(びょうでん) 第四十二」だという説もある。 この二つの篇を比べると、 概(おおむ)ね同じ文章であることがわかる。
○53 歧伯曰。 54 病先發于心。 55 一日而之肺。 56 三日而之肝。 57 五日而之脾。 58 三日不已死。 59 冬夜半。 60 夏日中。
53 歧伯(きはく)曰(いわ)く、 54 病(やまい)、 先(ま)ず心(しん)に發(はっ)し、 55 一日(いちにち)にして肺(はい)に之(ゆ)く。 56 三日(みっか)にして肝(かん)に之(ゆ)く。 57 五日(いつか)にして脾(ひ)に之(ゆ)く。 58 三日(みっか)にして已(い)えざれば死す。 59 冬は夜半(やはん)、 60 夏は日中(にっちゅう)。
(解説)
*『素問』の「標本病傳論(ひょうほんびょうでんろん)」では、このような文章となっている。
「01 夫(そ)れ病傳(びょうでん)は、 02 心病(しんびょう)、 03 先(ま)ず心痛(しんつう)、 04 一日にして欬(がい)、 05 三日にして脇支痛(きょうしつう)、 06 五日にして閉塞(へいそく)して通(つう)ぜず。 07 身痛體重、 08 三日にして已(い)えざれば死す。 09 冬は夜半、 10 夏は日中。」
*「心(しん)の病(やまい)」というのは、 「心痛(しんつう)」のことである。 今でいう心臓の痛み、胸が痛むということである。 「心痛」と書いて「むねが痛む」と読む場合もある。 「心の病」は身熱、 身が熱するよりも以前に「心痛」というのが典型的である。 「肺(はい)」というのは「喘咳(ぜんがい)」のことである。 「喘咳寒熱(ぜんがいかんねつ)」という言葉にある「喘咳(ぜんがい)」である。 どの蔵(ぞう)に病気があるのか、 それは症状でしかわからない。 症状で、どの蔵(ぞう)に病気があるかを診るのである。 「肝(かん)の病證(びょうしょう)」は「脇支滿(きょうしまん)」と「頭目眩(とうもくげん)」、この二つである。 脇(わき)が突っ張ってくるか、 あるいは眩(めまい)がするというのが「肝(かん)」の病である。 ちなみに、ここには虚実(きょじつ)の区別はない。 「脾(ひ)の病證(びょうしょう)」は、 「閉塞(へいそく)して通ぜず」。 閉塞(へいそく)するというのは、食べたものが、戻されて通じないということである。 これは主には、食べたものが入っていかない、食べられないという症状、また大小便が出ないというのも含まれる。 もう一つ「脾(ひ)の病(やまい)」として重要なものは、「身體重。【 身體(しんたい)重(おも)し】」、からだがだるいという症状である。 「体重節痛(たいじゅうせっつう)」というのがあるが、ここでの「体重」とは、からだがだるいということである。 「身體重」、身と體(からだ)が重い、 つまりからだが、だるいということである。 ここで「身」のうしろに「痛」の字を入れて「身痛體重(しんつうたいじゅう)」という場合もある。 「脾(ひ)の病(やまい)」というものは、からだが痛いということと、 からだがだる重いという症状が出る。 「腎(じん)の病(やまい)」の症状は、 腰脊(ようせき)つまり、腰や脊柱が痛み、 少腹(しょうふく)すなわち下腹部が張る。 また下肢が痛む症状も出る。「これが「腎の病」のあらわれである。 ここまでが五蔵(ごぞう)であるが、ほかに「胃(い)」と「膀胱(ぼうこう)」の病の症状の記載もある。 五蔵(ごぞう)プラス、 胃と膀胱の症状が言及されている。 「胃(い)」の病の症状は、 「脹(ちょう)」である。 「脹(ちょう)」というのは普通は、「腹脹(ふくちょう)」のことを指すが、胃の代表的な病證(びょうしょう)は「腹脹」と書かないで「脹」と書いてある。 上腹部が張るということだと思う。 「膀胱(ぼうこう)の病」の症状は、 「背膂(はいりょ)筋痛(きんつう)」である。つまり背中と脊柱が痛む症状である。 そして「小便閉(しょうべんへい)」、小便が出ない。 これが膀胱(ぼうこう)の病の症状である。 これらの記述が『素問(そもん)』「標本病傳論(ひょうほんびょうでんろん)」にある。
*09節の「夜半(やはん)」とは、23時~1時、子(ね)の時刻を、 60節の「日中(にっちゅう)は11時~13時、午(うま)の時刻を言う。
*馬玄臺(ばげんだい)はこのようなことを記している。
「冬屬水、 而冬之夜半、 其水尤勝、 惟水尅火、 故冬死于夜半。 夏屬火、 而夏之日中、 其火尤勝、 今心火已絶、 火不能持、 故夏死于日中也。 『素問』標本病傳論云、 「夫病傳者、 心病先心痛、 一日而欬、 三日脇支痛、 五日閉塞不通、 身體重、 三日不已死、 冬夜半、 夏日中。」 按『素問』言病、 『靈樞』言藏、 其實病即藏之病也。」。
【 冬は水(すい)に属(ぞく)す。 而(しか)して冬の夜半(やはん)は、 其(そ)の水(すい)尤(もっと)も勝(まさ)る。 惟(た)だ水(すい)は火(か)を尅(こく)す。 故(ゆえ)に冬は夜半(やはん)に死す。 夏(なつ)は火(か)に属(ぞく)す。 而(しか)して夏の日中(にっちゅう)は、 其(そ)の火(か)尤(もっと)も勝(まさ)る。 今、心火(しんか)已(すで)に絶(ぜっ)し、 火(か)は持(じ)すること能(あた)わず。 故(ゆえ)に夏は日中(にっちゅう)に死すなり。 云々 】
*病(やまい)の伝変(でんぺん)について、 「心(しん)」を例にあげて考えてみよう。
心病(しんのやまい) 心(火)→肺(金)→肝(木)→脾(土)→死 日中(火旺) 夜半(水旺)
*相剋の関係の蔵(ぞう)に伝わっている。 心(火)の相剋の関係にある肺(金)に伝わる。
*「肝(かん)」の病は、相剋(そうこく)と表裏(ひょうり)の伝変がある。
肝病(かんのやまい) 肝(木)→脾(土)→胃(脾と表裏の関係・ 土)→腎(水)→死 日入(金旺) 蚤食(土旺)
*『霊枢』の森を歩いてみませんか。 毎月休まず第二日曜午前10時から12時まで、大阪府鍼灸師会館3階です。 勉強会の案内につきましては本会ホームページをご確認下さい。
次回は 12月14日(日)、『霊枢』「順氣一日分爲四時 第四十四」です。会場、WEBでどうぞ。
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(霊枢勉強会世話人 東大阪地域 松本政己)
































